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最高裁判所第三小法廷 昭和57年(オ)100号 判決 1985年6月18日

上告人

池田忠治郎訴訟承継人 鯉沼一郎

右訴訟代理人弁護士

橋本辰夫

榊原卓郎

安田叡

井上展成

被上告人

寺尾アキ

外六名

右七名訴訟代理人弁護士

嶋村富士美

有住淑子

比佐守男

被上告人

青木茂

被上告人

三陸農林株式会社

右代表者代表取締役

青木豊

右訴訟代理人弁護士

本間勢三郎

櫻本義信

右補助参加人

真栄産業株式会社

右代表者代表取締役

関真一郎

右訴訟代理人弁護士

仲村昭

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人橋本辰夫、同榊原卓郎、同安田叡の上告理由第二の二について

一  記録上認められる本件訴訟の経緯の概要は、次のとおりである。

1  (一) 上告人(塔ノ山町会の代表者の交代により、昭和五三年上告人池田忠治郎が第一審原告・被控訴人沢村政造を、昭和五七年上告人承継人鯉沼一郎が上告人をそれぞれ承継した。これらをいずれも単に「上告人」という。)は、(1) 権利能力なき社団である「塔ノ山会」は、昭和二七年三月二三日、宗教法人宝仙寺から第一審判決別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の贈与を受け、その所有権が同会の会員全員に総有的に帰属したので、右総有関係を公示するため、昭和二九年六月二二日、本件土地につき所有者を「中野区塔ノ山町二九番地塔ノ山町会内寺尾辰己」とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を経由した、(2) 昭和二八年一〇月二〇日に塔ノ山会に代わって現在の「塔ノ山町会」が発足したが、両者は会員の範囲、目的等その実体において変更がなく、社団として前後同一である、(3) 本件土地について、彼上告人青木は東京法務局中野出張所昭和四六年一〇月八日受付第二七二六四号所有権移転請求権仮登記(以下「本件仮登記」という。)を主登記とする同出張所同年一二月二七日受付第三四三二三号所有権移転の附記登記を、被上告会社は同出張所同年一一月三〇日受付第三二三四一六七号所有権移転登記(以下「本件移転登記」という。)をそれぞれ経由している、と主張した。(二) 上告人は、右主張事実によって、塔ノ山町会の代表者会長として、右会の会員全員からの受託にかかる本件土地の所有権に基づき、本件土地につき、亡寺尾辰己の相続人である被上告人寺尾アキ、同寺尾一男、同長谷部千恵子、同戸塚幸子、同吉田久仁子、同寺尾弘及び同寺尾千万人に対し所有権移転登記手続を、また、被上告人青木に対し本件仮登記の、被上告会社に対し本件移転登記の各抹消登記手続を求める、と申立てた。(三) 第一審は、上告人を代表者とする塔ノ山町会が塔ノ山会とその組織・構成において同一であることその他上告人の右主張事実を認めて、上告人の請求を認容した。

2  右第一審判決に対して被上告人らが控訴したところ、原審は、宗教法人宝仙寺の塔ノ山会に対する本件土地の前記贈与の事実は認めたものの、太平洋戦争前の「旧塔ノ山町会」が終戦直後のマッカーサー指令に基づき解散させられたのちに本件土地に存する白玉稲荷神社の維持に特別の熱意を有する十数名の地元有力者によって組織された塔ノ山会は、その運営方法等に明確な定めがなく、塔ノ山町住民一般を会員として包容する組織にはなりえなかったものであり、町内会の結成が法的に可能になった昭和二八年に至り亡寺尾辰己ら地元有力者が民主的運営方法等を定め同町住民多数の入会を得て発足させた塔ノ山町会とは財産主体としての前後同一性を認めることは困難であるとしたうえ、他に塔ノ山町会の本件土地取得原因事実につき主張・立証がない以上、権利能力なき社団である塔ノ山町会の全会員が本件土地につき総有的に所有権を取得したとの上告人の主張は採用することができないとして、被上告人らの控訴を容れ、第一審判決を取り消し、上告人の請求を棄却する旨の判決をした。

二  しかしながら、記録によれば、上告人は、前記の主張事実のほかに、(一) (1) 塔ノ山会は太平洋戦争前から存した旧塔ノ山町会が終戦直後マッカーサー指令に基づき解散させられたため同会と同様の役割を果たすものとして亡寺尾辰己ほか地元有力者によって結成され、宗教法人宝仙寺から本件土地の前記贈与を受けたものであるところ、亡寺尾辰己ほか右地元有力者は、昭和二八年に町内会の結成が可能になったので、町内住民全般に呼びかけて、塔ノ山会と同様の目的を有しこれを発展させるものとして塔ノ山町会の結成を企て、町内住民多数の入会を得、その代表者に塔ノ山会代表者亡寺尾辰己を選任して、これを発足させ、それと同時に塔ノ山会を解散したこと、(2) 本件土地は、戦前から白玉稲荷神社の鳥居、御輿倉等の存する境内地であり、本件土地においては旧塔ノ山町会及び塔ノ山会により祭礼等の行事が行われ、また、その一部は旧塔ノ山町会及び塔ノ山会の事務所敷地として使用されてきたものであるところ、塔ノ山町会は発足以来右事務所を引き続き使用するなど本件土地を従前と同様の形態で占有使用してきたほか、昭和三二年には塔ノ山町会代表者亡寺尾辰己名義で中野区に対して本件土地の一部を児童遊園地として貸し渡す旨の契約を締結していること、(3) 本件土地については、塔ノ山会代表者名義の所有権移転登記は経由されず、塔ノ山会の解散・塔ノ山町会の発足ののちである昭和二九年に塔ノ山町会の代表者亡寺尾辰己と解される前記所有者名義の本件登記がされていることを主張していること、及び(二) 本件訴訟の当初においては本件土地につき塔ノ山町会自ら贈与を受けた旨を主張していたことか認められる。そして、これらの主張事実からすれば、上告人が、塔ノ山町会の本件土地の所有権取得原因に関する主張としては、不明確ながら塔ノ山町会が塔ノ山会から本件土地を承継した旨の主張をしていることが窺われなくはないから、原審としては、上告人又はその訴訟代理人に対して、本件土地の承継に関する主張の趣旨を釈明したうえ、これに対する当事者双方の主張・立証を尽くさせ、もって事案の真相をきわめ、当事者の真の紛争を解決することが公正を旨とする民事訴訟制度の目的にも適合するものというべきであって、かかる釈明に及ぶことなく、前示の理由のみで直ちに上告人の各請求を排斥することは、釈明権の行使において違法があるものといわなければならない。したがって、原審は、前記説示の点において釈明権の行使を怠り、ひいて審理不尽の違法を犯したものというべく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前記の塔ノ山町会の本件土地の所有権取得原因につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 安岡満彦 長島敦)

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